艶 続編
           えにしだふう様 ご投稿作品
 
 
「興、遅い!」
 関平は、戸口の方を見もせずに待ち侘びた情人をなじった。寝台に腹ばいになったその白い背を、薄い掛布がスルリ、滑り落ちた。しなやかな筋肉に被われた両肩から男にしては細い腰回り、もっちりした臀部の窪みまでどこまでも白く、肌目が細かく、燭台の覚束ない明かりに妖しく揺らめいた。
「…」
 いつまでも応答のない相手を、平は不審に思う。いつもならばそもそも戸口を開ける時点で「兄上!」と盛りを隠せぬ情けない声で飛び掛かって来る。しかも今日はあまりに遅い弟に待ちくたびれて一枚脱ぎ二枚脱ぎしている間に高まってしまい、果てがこの姿だ。これでも体裁上弟との交合は否応なく、仕方なく、弟にせがまれた故、と言うことになっているため始めから全裸で待っていたことなど一度たりともない。それをこのように、まだまだ青い興には過ぎたる刺激的な姿で待ち構えていようものなら、たちどころに屹立したものを押し付けてくるはずと考えていたのだが。
…よもや刺激が強すぎて鼻血でも噴いておらぬだろうな。
 さすがに心配になり、身体を持ち上げ。

 仰天した。


「…ち、父上…」

「…ほう、なかなかによい眺めだな」
 父は怒るでも蔑むでもなく、茶器か刀剣でも鑑賞するように言った。関平は信じられぬとばかりに硬直したが、次の瞬間枕の下に常に隠してある護身用の懐刀をとり、素速く刃先を己の喉元に当て…ようとしたが、かなわなかった。父が一瞬速く関平の手から刀を叩き落としたためだ。
 しばらく二人は無言でもみ合った。
 しかしそこは天下に名を轟かす武人関羽。息子の両手首を痛いほど掴み上げ、その動きを完全に拘束してやると関平はガクリと抗う気を失えた様子であった。
「ど、どうかお離しくだされ!死んでお詫び申し上げまする!!」
「ならぬ」
「されど父上の恩情にお縋りし息子とさえ呼んでいただく誉れを頂戴しながら」
「ならぬ、と言っておる!」
 それ以上は聞かぬ、という圧倒的な威圧感を持って関羽は吠えた。
「…」
 関平はがっくりうなだれ絶望感に沈みながら父の視線を浴びた。

 ジジ、燭台の火が揺れる。油が切れたらしく風もない室内の唯一の明かりがふ、と消え真闇が訪れた。
 これで裸を晒さずとも済む、と安堵しかけた関平だが、寝台にうずくまる自分の目の前に仁王の如く立っていたはずの父が不意に寝台に乗り上げて来て二度仰天した。
 父は手探りで関平の首筋を捜し当て、愛おしげに両の手で包み込むと吐息がかかる程の近さでねっとり囁く。
「…お前が小伜のような青二才が好みだとは知らなんだな」
「ちっ、違います!いえ、違いません…」
 思わず咄嗟に否定したが恐れ多くもこの父の実子である弟をかどかわしたことに変わりはない、むしろ興を罰するのではなく自分を処断して頂きたいと思い、慌てて言い直した。しかし父は全てを超越しているかのような笑みを返す。
「ふん?ではお前はやはり周倉や趙雲のような熟れた男の方が具合がよい、と言うわけだな?」
「…ご、ご存知だったのですか…」
 一生分の恥の極みを一日で、それも一刻ばかりで味わうことになるとは。いや、それもこれも己のこれまでの不道徳な生き方への応報なのであろう。観念した関平はせめて父に全てを懺悔してから命を絶とうと思い定めた。
「…父上。父上に召し抱えて頂いておきながらこのように恥を晒し申し訳もございませぬ。されど…されど私は…平は、誰よりも、父上を…」

 このような形で想いを告げることになろうとは。関平の頬を涙が伝った。平素ならば男がたやすく泣くものではないとでも怒号が飛びそうだが、今父はただ静かに息子のうなじを優しく撫でていた。頬を濡らした雫をそっと舐めとってやると、関羽は言った。
「…興をこの儂の身代わりとしたか」
 そうですとも違いますとも答えられずに、関平は苦しげに父から視線を逸らした。
「平。それを儂に言うて自害しようなどと思うてはおらぬだろうな」
「…」
 父はさらに意地悪く続けた。
「せめて冥土の土産にこの父と情を交わしたいとは言わんのか」
 それを聞くと恐る恐る関平は顔を上げた。じっと自分を見つめる父の視線にぶつかり。
…ああ、やはり私はこの方を愛している。
 関平は父の顎髭を両手に捧げ持つと恭しくそれにくちづけた。



 夢にまで見た父の身体は固く、熱く。関平は父の着物の裾を左右に払うとその股間に顔を伏せ、自分の知るありとあらゆる方法で懸命に奉仕した。父のものは大層立派で喉の奥まで含むと酷い鳴咽感を堪えなければならなかったが、愛しい人のものを愛撫できる悦びにまなじりを濡らしながら頬をすぼめ舌を這わす。長年想い続けたあの父のものであると思うと先走りさえ甘露のように甘く、咥内に吐き出されたものをもひとしずくたりとも零さぬよう慎重に嚥下した。父は、褥でのことにもはや慣れてしまった関平でさえ自我を保てぬ程息子を翻弄し続ける強健さを見せた。胸の尖端から下腹部、果ては脇腹や膝の裏側、指の股など関平自身ですら知らなかった性感帯を次々探り当て刺激する。十数年来想い焦がれた父に抱かれていること、またこの頃の相手がなかなか夜のことに上達を見せぬ弟ばかりであることを差し引いても割りが合わぬ程、今宵関平は乱れに乱れ、父を体内に迎える前だと言うのにかれこれ三度は吐精していた。

「…ひっ!」
 やっと挿入が始まった。脚を折り畳みそれを己の両手で引き寄せる格好で、関平は貫かれる苦しさに耐えた。充分過ぎる程慣らされての挿入であるため興を初めて迎えた時のような激痛はない。
 しかし。興の非常識な大きさは遺伝のなせる業でありこの父こそ本家大元である。
…ああ、さ、裂ける、裂けてしまう…。
 ぼんやりとそう頭に浮かんだが、止めて欲しいとは露にも思わなかったし実際経験を積んだ身体はこの父にさえ見事に順応しつつあった。関平は恐怖を抱く程凶悪な父の分身に刺し通されているという事実に酩酊感を覚え、父が全てを収めきって己の身体が軋むのを感じると恍惚となった。
 ああ、ともはあ、とも聞こえる息子の深いため息を聞くと関羽はそのたくましい腕で息子の腰を掴み、ぎりぎりまで引き抜いてから一息に最奥まで突いてやった。
「はぅうっ!!」
 もはや息子の瞳は焦点が合ってはいない。ただひたすら恍惚の海に漂っている。
…これはあの小伜では満足させられぬだろうな。
 関羽を奥へ引き込もうとうねり締め付ける息子の内部に関羽はこっそり毒づいた。
…なんとも貪欲な身体よ。
 ともすると促されそうになる強烈な締め付けをやり過ごすと、関羽はがつがつと腰を打ち付け始めた。



 一方その頃。
 ようやく関羽に申し付けられた馬具八百の検品を終えた関興は、逸る気持ちを隠しもせず愛しい兄が待つ我が家への帰途を急いでいた。
「父上も何も夕刻になってから言わずともよいものを」
 聞く者もないのについ不満が口を突く。しかしようやく父や兄の手伝いをさせてもらえるようになったこの幾月かで、己の実務能力のあまりの低さを思い知り愕然としたところであったため、父にやっと与えてもらえた仕事はなんとしてもやり遂げるほかなく。ようやっと帰宅の段に到った時にはお部屋に参上致しますと兄に約束した時間をとうに廻っていた。
「兄上…もう休まれてしまっただろうか」
 もちろん兄の艶めかしい身体を一時といえ預けてもらえる喜びに勝るものはないが、もし兄がすでに就寝してしまっておればその美しい寝顔をただ見つめるだけでもいい。本人は至極真面目にそう考えていたが、誰の目にも甘酸っぱいを通り過ぎ多少痛い恋心を持て余す、そんなお年頃であった。
 家人も寝静まり、人の気配の途絶えたはずの屋敷で兄の部屋だけは、明かりはついていないにしろ人の、それもなにやら穏やかでない気配がする。行儀悪く戸板に耳をつけて中の様子を伺い、唖然とし、次の瞬間激しく血がたぎった。
「…あっ、あっ、はあっ…」
 間違いなく兄の声だ。それも自分の拙い手管では未だ一度たりとも導き出せたことのない、甘く、性に陶酔した喘ぎ。
 まさか兄が自分以外の誰かと最中であるとは思い至らない興は、いてもたってもいられず室内に押し入った。



「おう、遅かったではないか」
 父が、兄を、揺さぶっている。
 父は兄の寝台に胡座をかいた姿勢で生まれたままの姿の兄を脚の間に乗せて貫き、下から突き上げていた。背から抱いた兄の乳首に右手を、立ち上がり汁を零し続ける陰茎に左手をそれぞれ宛がい、絶え間無く兄を苛んでいる。
「ヒ、あぁ、こ、興っ、許して、許して…」
 父の膝上で跳ねるように腰を振りながらそれでも関平は弟に許しを請うた。それは父に抱かれ感じていることへなのか、これまでずっと弟の中に父を見ていたことへなのか。いずれにしろ裏切りであったが不思議と興は傷つきもしなかったし怒りも沸いては来なかった。それよりはあまりに猥らで美しい兄の姿にただひたすら茫然と見とれる。

「いつまでもそんなところに突っ立っとらんと手伝わんか」
「は、ハイっ!」
 父に声を掛けられ、興は背を正してそれに答えると恐る恐る寝台の側に寄った。
 快感に身体じゅうをぶるぶる震わせながら興を見上げた平は、後ろから父に抱きかかえられた不安定な姿勢に縋るものを求め、弟の伸ばされた手に自分の手を重ね指を絡めた。
「兄上…」
 兄が自分を見つめる視線に、間違いなく愛情を感じて興は切なさでいっぱいになった。兄は、父を愛している。しかし自分をも愛してくれている。
 父が「前を慰めてやれ」と言うので、興は兄の充血したところへ唇を寄せた。上手くやれば父が後ろも具合が良くなったと満足気に唸るので、滅多に父に褒められたことのない興は必死で兄の陰茎を吸った。兄が狂わんばかりに自分の髪を掻き交ぜ、泣いている。
 その声に関平の絶頂をいち早く読み取った関羽は興にふぐりをも揉んでやれ、と指示すると自分は最後とばかりに息子のよいところを強く擦り上げてやった。
「ああぁ…!!」
 大きく身体を引き攣らせると、関平は薄くなった体液を撒き散らした。関平の出したものは、構えの間に合わなかった興の顔のあちらこちらに飛び散り、関興はそれらを丁寧に拭い口に運んだ。父にそっくりの眼差しで、しかし歳相応のあどけなさが残る顔が自分の精に塗れているのを目の当たりにし、達したばかりだというのに関平の腰はきゅう、と疼く。父が、今度は父自身が達するために関平の腰を突き上げ熱い奔流を奥へとだくだく流し込む間、関平は自分の中が未練がましくうねっているのを感じていた。



 父は関平を寝台に横たえると自分はさっさと身支度を調え、部屋を後にする気であるようだった。
「興、もう足はおろか腕も上がらんだろうから清めてやれ」
 兄の枕元に心配そうに寄り添っていた興は慌てて父に問い尋ねた。
「父上、その…私はどのようにしてよいやら知りません…」
 なんと、後始末も自分でしておったのか。
 弟にそこまでさせられぬと思っているのだろう関平のいじらしい強情さに呆れながら、関羽は興に言った。
「そなた褥のことは全て平に手ほどきしてもろうたのであろう。ならば後始末も恙無きよう習うておけ」
 父の言った通りもはやぴくりとも身体を動かせぬ関平はそれを忌ま忌ましい気持ちで聞いていた。
…まさか。興に掻き出すことまで教えろと言うのか。
 しかし父に刃向かう気力もなければ己でなんとかする体力も残ってはいない。父はそんな息子の眉間の僅かな皺をも見逃さず、さらに関平に対して言った。
「…その様子では自害する気力も残っておるまい?」
 関平はムッとして思わず父を睨みつけた。息子の反抗的な視線をしかし父は喜んでいるようであり、さらに追い討ちを掛ける。
「三日後に再び伽を申し付ける故それまで死んではならぬぞ」
 そうして父は気味が悪いほどうきうきとした足取りで、二人を残し出て行ったのであった。