えにしだふう様 ご投稿作品
 
 
「兄上、キツイ…」
 関興は息を詰めて呻いた。
「あ、あ…」
 しかし自分の下で余裕なく引き攣った声を漏らす兄からの返事はなかった。いや、関平は興の言葉を聞いてはいたし、それに対して心中悪態も吐いていたが言葉にはならなかっただけだ。
「ああ、兄上、どうか今少し緩めて下さい、キツ過ぎて…」
…ムリムリ馬鹿言えお前がデカ過ぎるんだ!

 弟は自分が父に似ているという自覚がないらしい。身の丈九尺の偉丈夫関羽ほどではないにしろ、関興とて血の繋がらぬ関平よりも一回りは大柄な体躯である。当然身体の大きさに比例した、いや等比例以上の持ち物でありながら本人にその自覚がないとは。
…入れられる方の身にもなってみろ。
 呼吸さえままならぬ圧迫感に朦朧としてきた。
「…興…」
 全く非常識な弟は意識が途切れそうになって呼ばれただけの自分の名を、兄に急かされたと思ったらしい。
「は、はいッ!」
 返事をすると猛然と突き上げ始めた。実際兄が何も言わなくとも腰が勝手に揺れ始めていたのだが。関平はおぼこのように悲鳴をあげた。
…なんなんだこれは。初めての時だってここまでは苦しくなかった。
 ぎゅっとつむった眼から生理的な涙が、せわしなく息を吐き出す唇からは唾液が枕を濡らす。痛すぎるとは言え、後孔からの快感の拾い方を心得てしまっている身体は関興のがむしゃらなだけの抽送にさえ貪欲に応えようとする。いっぱいいっぱいに興をくわえ込んだそこが平の意思とは関係なしにうねり纏わり付くのに、若い興は堪えが利かずあっという間に爆発させた。しかも中途半端に抜き差しの途上で爆ぜてしまったのでその精は半分は浅いところへ注がれ、残る半分は関平の尻やら背にかけてのふしだらな絵模様となった。
「…」
 急に埋め尽くしていたものが無くなり激痛と呼吸困難からは救われたが、到底関平にとって満足できた交わりではない。現に興が出ていったそこは名残惜しんでまだひくひくと小さく開閉を繰り返している。
 平は寝台に四つん這いになったまま恨めしく興を振り返ったが、弟を責めることもできない。…何せ、興は初めてなのだ。兄である自分にのしかかることが。男である平を相手に欲を遂げることが。女すら抱いたことがない、この弟は。

「すみません、すみません兄上…」
「…もう良い。そのような情けない顔をするな」
「し、しかし…」
「興、初めてであれば誰しもそう上手くいくものではないのだから…」
 口では慰める言葉を掛けながら、内心ではこの火照った身体を早く鎮めたいとそのことばかり。
「しかし兄上!私は、兄上をもっと気持ち良くして差し上げたいのです!」
 意気込む弟はそう言うと止める隙もなく関平の股間に顔を埋めた。
「ふうぅっ!」
 一度は昇りかけた身体にはかなりきつい仕打ちだった。興はぺちゃぺちゃとはしたない音をたてながら兄の昂ぶりを舐めた。潤む先端から括れ、敏感な裏側へとまさに教わった通りに。
 そう、この兄に教えられた通りに。



 関平は関羽の養子となる前、つまり河北の生家にいたころに学問所での兄弟子に身体を開発されていた。関平としてもその青年に幼な心に憧れていたため、年端の行かぬ少年に覚えさせるには早過ぎる教育だったにしろ双方合意の上であった。しかし一年も経たぬうちに青年は戦にとられ、二度と戻らなかった。性のよろこびを知ってしまったまま一人取り残された関平であったが、幸か不幸か本人は無自覚の色香を纏っていたためその後もなにかと誘いがあり、躯の渇きに限界まで苦しめられることはなく、しかし取り返しがつかぬほどそれに溺れることもなく無事成長した。
 関羽の子となるまでは。

 武芸はもちろんのこと関羽の男としての魅力に強烈に惹かれて迷わず子となった平であったが、肝心の父には自分の抱く想いについては打ち明けることが出来ずにいた。
…父上は軽蔑なさるに違いない。
 そう思っては躯の疼きを己で鎮めた夜が幾晩あったことか。それでも手に負えぬ日にはやむを得ず寡黙な周倉を頼った。戦に気が昂ぶり収まらぬ日には剣術を指南してくれている趙雲や男女問わず経験豊富と噂の劉封の天幕をこっそり訪れた。しかし、どうしても父本人にだけは情けを求めることが出来なかったのだ。
 そうこうするうちに、関平にとって最も厄介な事態が起こった。父の実子である関興が年頃になるにつれ義兄である関平に懸想するようになってしまったのだ。始めは弟を正道から逸れさせるなどあってはならぬことと拒み続けた関平であったが興は思いの外諦めが悪く、しかも恋い慕う父にそっくりの眼差しで日ごと迫られるのに耐え切れずついにここまで来てしまった。

「興、興、もうよい、もうやめてくれ…」
 興は聞き分け悪く兄の体を離そうとしない。このまま前だけで果ててしまったとしても満たされる訳ではないことは関平にはよくわかっている。そんな身体になってしまっているのだ、自分は。
 しかも拙い興の口淫ではなかなか先が見えそうにない。関平はもどかしさに一層焦れた。
「…っく…興、も、もう本当に」
 関興は兄のそこに両手を添え舌を出したまま悲しそうに見上げた。
「…私が拙いので兄上を善くして差し上げられないのですね」
「そ、そうではない」
 関平は急いで否定した。
「…お前が悪いわけではない。しかし…うぅ…」
 自分の弱点を、そしてその攻め方を弟に指南しなければならないなど、これに勝るほど惨めなことがあろうか。
 それでも身体の疼きはひたすら平を苛む。
「…で、では、こちらも」
 ゴクリと唾を飲み込み、弟の手を取ると自分の後孔に触れさせた。
「こちらも、してはくれぬか」
 一刻前に己の指でもって解したそこはすでに香油の名残も失せ、興の太い指が入り込むと引き攣った痛みが生じた。それでも入口を過ぎさえすれば先程の弟の残滓も幾らかあり、苦痛はない。
「はあ…っ、んん…」
「兄上、善いですか」
「ん…も、もっと、奥…」
 関平の体内は歓喜して関興の指を迎えた。
「凄い。兄上の中、熱くって動いてます」
 自分でも止められない蠕動について直接的に表現され、カッとまた体温が上がった。涙ぐみながらもどうしても快感を追いたくて関平は言う。
「…う、動かして…」
 興は言われた通りに付け根まで埋め込んだ指を動かし始めた。掻き交ぜるように動かしながら関節を曲げた。
「ぁああっ!!」
 それほど器用でもない彼にもはっきりそれとわかるぐらいに兄の反応が変わる場所に触れた。興はやっと乱れ始めた兄を見て満面の笑みを浮かべ、そこを集中的に攻め出した。上手く突いてやれば聞いたこともないような卑猥な声で兄が鳴く。関興は夢中になった。
「兄上、ここですね、ここが善いのですね」
「ふうっ、ああっ…!興っ、や…」
 加減というものを知らぬらしく興はせっせと指先で腸壁を擦りあげた。一段と深く潜った興の曲げた指の腹がくん、とその場所を再び捕らえた時。
「んああぁっ!」
 のけ反り叫んだ平の全身が大きく跳ねて、しばらく放置されていたその先から滴りが数滴飛んだ。完全に果ててしまったような様子ではない。が、衝撃に堪え切れずに気を遣りかけたのか。兄のこの恥態を瞬きも忘れて見ていた関興の方がもはや限界であった。
「あ、あ、兄上!わたわた私はもう耐えられません!!」
 指を引き抜くと兄の両足首をむんずと掴み、再度兄に挑みかかった。
「あうぅっ!」
 二度目でも苦しさは少しも軽減されない。身体が張り裂けそうだ。しかし興は多少なりとも学習したようだ。果敢に先程の場所を狙って突こうとする。まるで的確とは言えないが、そもそも限界的に巨大なものに圧倒されていた身体は弟が今度は深いところで本懐を遂げたのを感じると、ほどほどに満ち足りて弛緩した。

 まあ最後はこっそり自分で前もなぶる必要があったし、実のところ肉体的な気持ち良さと言うよりは、遂に弟の精までこの身に受けてしまった(しかもそれを己が手ずから指南してしまった)という背徳感にイッてしまったというのに近いが、まだまだ若い興のこと。この身体中占領してくるような大きさを自在に使いこなす日がくれば自分の方こそ弟に溺れてしまうかも知れぬ…。
 関平は隣で気持ち良さ気に寝入った弟の髪を指ですいてやりながら、そんな日が来るのを恐れながらもその日に焦がれてしまっている浅ましい自分にそっと嘆息した。