足ながおじさん 「どーも、廖化デス♪」
           えにしだふう様 ご投稿作品
 
 
 どーも、廖化デス♪
 平くんも新しい生活に慣れたみたいで、夏休みが終わる頃には毎日とってもリラックスした表情になってます。カテキョの子龍さんとそのカレシ馬孟起ともなんか気付いたら家族ぐるみのお付き合い?みたいになっちゃって。不思議だよね、だって誰ひとり血は繋がってないのになんだか大っきな家族なんだもん。まあ、楽しい毎日かな。だけどさ、こんなにみんなが急に近い関係になったのも平くんのあの純粋さってかカワイらしさのおかげってヤツ?だからオレは平くんのために夏休み終了記念の素敵なパーティーを企画してあげることにしたんだ♪関先生にかなり自由に生活費委ねられちゃってる身としては日頃の節約の成果を見せるってヤツ?ふふふ、楽しみ〜。

・日付 夏休み最後の土曜夜
・場所 関家のリビング
・メンバー 関せんせ、子龍さん、馬孟起、翼徳のおっちゃん、オレ。もちろんメインゲストは平くんだよん♪
 お料理担当大臣はスーパー家政夫廖化!そう、このオレ。きっと平くんも何か作りたいって言ってくれるから一緒にケーキでも焼いちゃおっかな。
 平くんてホントカワイイんだよね〜。なんか健気で!平くんの‘お父さん’は関先生だけど、平くんの‘お兄ちゃん’は間違いなくオレだね。しかもかなり好印象のお兄ちゃんですよ!あー、平くんオレのこと‘廖化さん’じゃなくて‘お兄ちゃん’とか言ってくんないかな〜?おっと脱線。子龍さんはもう来てくれるだけでオッケーだから馬孟起にはワインでも持って来させよう。だってアイツ呼ばれるだけでも感謝するべきじゃん?翼徳のおっちゃんにも自分が呑む分は自分で持って来させないとね。なんせ尋常な酒量じゃないんだし。




「わー、これ僕に?ホントに?」
 平くんは子龍さんが持ってきたプレゼントの箱をニコニコして受け取った。う〜ん、やっぱカワイイね。そしてさすが子龍さん、気が利く!!
「九月から新しい学校だろう?今まで制服がある高校に通っていたと聞いたから」
「ほわぁカッコイイ…」
 平くんは箱から靴を取り出すと部屋の中なのにそれを履いてフローリングをカポカポ歩いて見せた。
 平くんが施設から持って来た服や靴はどれも少年らしいものばかりで、しかも量も決して多くはなかった。彼の慎ましやかな性格が現れてんじゃん?ここに来てから何度か一緒に買い物に行って私服通学に支障がないぐらいに服を買い揃えるのは手伝ったけど、革の、しかも先がつんと上向いた今っぽい靴なんて平くんは絶対自分では選ばないからね。
「おう、なかなか似合うじゃないか。馬子にも、だな」
 馬孟起がさりげに酷いことを言った。…ヤなヤツ。しかしそんな馬孟起も平くんのことは大層気に入っているらしく、彼もまた平くんにプレゼントを持って来ていた。
「…え?孟起さんも?僕に?」
 黙って差し出された袋から出て来たのはナナメ掛けするかばん。シックなデザインだし所々革だし、かなりいいものなのだろう。
 新しい靴とかばんを両方身につけて二人の独身貴族に丁寧にお礼を言った平くんは、早速翼徳のおっちゃんと飲み始めてる関先生に見せにとんで行った。
「…はー、カワイイねぇ」
 オレが思わず呟いた言葉に子龍さんはふふ、と笑って応じた。
「あの素直さは全く誰かさんにも見習って欲しいもんだね」
 すかさず馬孟起が唸る。
「どっちがだ」
 ま、悔しいけどこの人たちイイカンジってかお似合いだよね。とか言ってオレは一応子龍さんのことはもう諦めたつもりなんだけどさ。
「…さ〜て、料理出すかな」
 オレは熱さにやられる前に退散することにした。



 宴もたけなわになるとオレの予想通りに基本酒豪のおっちゃんと酒好き祭り好きの馬孟起は手が付けられない状態になった。と言っても劉社長の関係者はこいつらの扱いに慣れ切ってるから特に驚きもしない。ほっとくだけ。驚いたのは味見と唆されてワインやら焼酎を散々口にした平くんが、量はそれほど飲んでないはずなのにひどく酔っ払ってしまったことだ。
「平くん、ダイジョブ?お水飲む?」
 平くんは周囲に小花を撒き散らすかのようなご機嫌っぷりでひたすらうふふあははと笑っている。この子、笑い上戸だったんだ…。
 突然平くんは廖化さん大好き!なんて言いながら首にかじりついてきた。やだ〜何この子。酔っ払ってても超カワイイじゃん!
「ん〜オレも平くん好きだよ〜」
 ここぞとばかりにオレは平くんの細っこい体を抱き締めた。はー、癒される〜。すると平くんはクスクス笑いながらあろうことかオレにいきなりチュウしてきたわけ!!しかも唇ね、唇!
「…え??」
 さすがのオレもこれはマジで予想外。ちょっとちょっと平くん?!ヤバイでしょ、関先生にバレたらオレ解雇じゃね?!幸い関先生は翼徳のおっちゃんの酒を注いでいたから気付いてはいないようだったけど、唖然って感じでオレらを見つめてる子龍さんと目があった。やめてよそんな顔!これは事故です〜!!
 涙目になるオレをよそに、平くんは今度は子龍さんの膝によいしょよいしょとか言いながら無理矢理よじ登った。誰かあの子の持ってるグラス取り上げちゃって!
「…せんせ」
 今、絶対語尾にハートマーク付いてましたよね?
 子龍さんはさすがに「関平、廖化を困らせるんじゃない」とか「二日酔いになるからもう飲んじゃダメだ」とか立派な大人らしく(おっちゃんと馬孟起にも見習って欲しい)平くんを諭すんだけど、残念ながらあの子、なんも聞いちゃいない。ずーっとニコニコして子龍さんを見つめてる。それも「趙せんせ、今日もカッコイイですね!」とか「僕、先生のことも大好きです」とか無関係なことを時々口走りながら。ノレンに腕押し、ヌカに釘。酔っ払い少年にさすがの子龍さんもはぁ、とため息をついたその時!
 チュウ、て平くんが!子龍さんに!!
 子龍さんはキレイ系で平くんはカワイイ系だからなんかお耽美〜…じゃなくって!!
 マズイマズイってば!オレは慌てて、しつこく子龍さんにチュウチュウ吸い付く平くんを引きはが…そうとしたら。背後に尋常じゃない殺気を感じた。いやマジで一瞬ゴルゴ13来ちゃったかと思ったから!もちろんこの家でゴルゴ13と言えば関先生以外にいない。関先生は平くんを子猫の首根っこでも掴むみたいに持ち上げるとあっという間に抱え上げて寝室に連れてっちゃった。

「…」
「…」
 しばらく二人して沈黙した後子龍さんはおもむろに立ち上がると「今のうちに逃げるぞ」とオレに囁き、非常事態に全く気付いてない馬孟起を引きずって玄関に向かった。オレも翼徳のおっちゃんを引きずって(これはホントに大変だった…)後を追う。
 マンションの表口まで出て、やっと命拾いを実感。そしてついでにせっかくのほろ酔いも冷めちゃったことを実感。
「…平くん、キス魔だったのね…」
 予想外の結末に呟いたオレに子龍さんが言った。
「…廖化。明日は午後から出勤しろよ」
「え?なんで朝から片付けないと部屋めちゃくちゃのまんまだし…」
「はぁ…。あのな、今頃ベッドで関先生は関平に再教育中だから。再教育だかお仕置きだか知らんが」
「え?え?!そ、それって…そういうこと?!」
「…本当に知らなかったのか。とにかくそういう訳だから首が繋がったままでいたければ明日は遅目に行けよ」
「ハイ…。なんかショック…。だってだって、ってことはオレ、子龍さんだけじゃなくて関先生とも間接キスってこと??」
 ウケを狙って言った訳じゃなかったのに、子龍さんは何にもない場所でコントみたいに派手につまづいた。




 翌日、子龍さんのアドバイス通りわざと遅刻で出勤すると平くんは酷い頭痛で(もちろん二日酔いだ)、昨日の夜アルコールを口にした後のことは何にも覚えていないと言う。
「…なんか廖化さんに迷惑かけちゃったからちゃんと謝りなさいって先生が…。あの、ごめんなさい」
「イヤ、あの、覚えてないんならオレも気にしないって言うかキレイサッパリ忘れますから…」
 関先生の視線が痛くて、最後の一言は当然関先生のために付け加えた。
 フンっていう鼻息、ここまで聞こえてますよ、先生。
 居間は全然片付いてなかったけど、先生のベッドのシーツだけはすでに洗濯機にかけてあって、あーやっぱり?なんてオレは昨日子龍さんに聞いたことを再確認しちゃった。いえ、即解雇にならなかっただけ、それどころか冗談じゃなく真剣に命があるだけマシですけどね。
 膨大な量のビールの空き缶をガラガラ袋に詰めながらオレは昨日飲み足りなかったこのストレスをどうやってやっつけるか考え始めた。