学園パロ チェリーの彼。 |
えにしだ |
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「先輩もさぁー、好きなコ振り向かせたいんなら、例えばぁ〜、もうちょびっとオシャレに気を遣ってみたらいいんじゃん?」 昼食後二人で校舎の屋上でガムを噛み噛み寛いでいると、唐突に関索が言った。 「は?なんで急に…」 「だってさぁ。そうやって、ついつい星彩を目で追っちゃうんでしょ」 「!!」 校庭でバレーボールをする女子の中に無意識に星彩の姿を探しているのがバレていたとは。 恥ずかしさに言葉が出ない。 「…好きとか、そ、そんなんじゃない…」 こんなに狼狽えていては説得力の欠片もないが、関索は兄の挙動不審にはツッコまず、関平の顔を覗き込んでニッと笑った。 「大丈夫だよ、先輩…ってか兄上なら、ちょっとやれば全然変わると思うな!今よりもっとずーっと格好よくなるよ!!」 「そ、そう…かな…?」 イマイチ、いや、全くと言ってよいほど自分の容姿に自信のない関平だが、兄の目から見てもイケメンで実際常に女子にモテてモテて仕方ない弟にそう言われると、なにやら嬉し恥ずかしい。 関索は関索で、いつもなら『オシャレより武の精進』と即答する兄が若干ぐらついている様子に、ヨコシマなヒラメキに身を委ねたいという欲求に誘惑される。 照れている兄の可愛いらしさに湧き上がってくる笑いを噛み殺しながら、関索はサブバッグに無造作に手を突っ込んでポーチを取り出した。 「…いつもそんな、その…女子みたいなの持ち歩いてるのか?」 「女子みたいって。別にピンクとか花柄じゃないし〜。むしろエチケットでしょ」 とは言うが、実のところ自分のお洒落への興味関心が身だしなみの域を越えつつある自覚はある。 関索はポーチからあぶらとり紙、折り畳み式ミラーと眉を整えるための小さなハサミを出し、ミラーを兄に持たせた。 「?」 兄はわけがわからず目をぱちくりさせている。 「まずは〜、あぶらとり紙でテカってるとこ押さえてね」 恐る恐る薄紙を顔に押し当てる兄に、どうしようもなくいとおしさが込み上げてきた。 …うーん、ちょっとくらいのイタズラなら許されるかな? 「索、これでいいか?」 兄が殊にこの分野では自分に全面的に頼らざるを得ないことが、ここまでの快感とは。 「うん、うん!じゃ、次は眉毛整えるね!」 兄はどうしてか自分の容姿に自信がないようだが、関索は兄の男らしい凛々しい眉や目元が好きだった。もしかすると『それが兄上だから好き』なのかもしれなかったが。 「…よっし、オッケ。ね、兄上、格好よくなったでしょ?」 「ほ、ホントだ…なんか眉毛だけで全然違う…」 鏡を見つめるキラキラした瞳。 僅かに上気した頬。 うっすら微笑みを形作る唇。 そして確信する。 …やっぱり、このぐらいのイタズラは許されて然るべきだ、と。 関索は仄かにチェリーの香りがするリップクリームを兄の唇に塗ると、ぷるんと潤んだ兄の唇に自分の指先を押し当て、それからその指で今度は自分の唇に触れた。 瞬きも忘れて硬直している兄に見せつけるように、唇を離すのに敢えてチュッと音を立ててみせる。 「ごちそーさま」 「〜っ!!」 …兄のオシャレを手伝うのは、間違っても兄の青い恋を応援するためなんかじゃない。 ただ自分が兄を自分好みにカスタマイズしたいだけ。(まぁ、そのままでも十分カワイイけど。) なーんて、兄上には一生教えてあげなーい。 心の中で呟くと、未だ固まっている兄の隣にごろりと寝転がった。 |