学園パロ 試着室の彼。 |
えにしだ |
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夏だ。 とにかく夏だ。 夏というだけでテンションが上がる、と言う長兄に対し、個人的には蒸し暑いのが苦手な関索は日々げんなりした気持ちで過ごしている。もっとも、それを顔には出さないのが彼のポリシーなのだが。 「はー、なんかいいコトないかな〜」 夏休みで普段より暇な分、こんなため息をつくのが癖になってしまった。 学校という場所で兄を敢えて「先輩」と呼んで追いかけ回すお気に入りの遊びができない以上、しばらくは退屈を持て余すしかないのだろうか。 …大好きな兄上が毎日こーんなに近くにいるのに。 「ねー兄上〜。どっか行こ〜よ〜」 「そうだな、索はどこに行きたいんだ?」 兄が比較的乗り気であることに、途端にむくむくと例の感情が頭をもたげる。 「海!!海に行こう!」 「海か。じゃあ興が帰ってきたら…」 「やだ!兄上と私と二人で行きたいんだもん。ヨシッ、そうと決まったら早速今から…!」 「えっ、ちょっと、ま、待て!拙者は学校の水着しかない…」 「そう?別にいいんじゃないかな。なんかエロくて」 「ば、馬鹿!嫌だよ」 「ん〜…。それなら今日は二人で水着を買いに行きましょうよ。今度海に行くために」 「うん、まぁそれなら…」 というわけで二人して出かけたのだった。 「…索、またこーゆーの…」 関索が関平に「きっと似合います!」と売り場から探して来る水着は、どれもこれも穿き込みが浅いか、カットが深いか、男の自分でもどぎまぎするほど前が3D仕立ての水着ばかりで、布部分の面積もはっきり言って関平が普段穿いているパンツより小さい。 「そんなこと言って、まだ兄上一つも試着すらしてないよ。兄上のちょっと筋肉質で爽やかな感じに絶対、絶対似合うから!ホラ」 試着を渋る兄の耳許でさらに切り札を出す。 「…こーゆー男前な潔い感じの水着、きっと星彩も父上も好きだろうな〜」 「う゛…」 そして自分も適当な一着を手に取ると兄の背中を押し、試着室に二人して転がり込んだ。 「ちょ、索、なんで一緒に!」 「えー、似合ってるかお互いに見なくちゃわかんないじゃん。それとも兄上、穿いたとこ、外まで出て見せてくれんの??」 そ、それもそうか、と簡単に納得してしまう兄の破壊的素直さにキュンキュン萌えながらもポーカーフェイスを貫き、戸惑う兄を尻目にちゃっちゃと着替えを終えた。もちろんいち早く着替え終わったのは、兄の着替えの一部始終を見逃すことなくしっかりと心のアルバムに納めるためだ。 ゴクリ。 不覚にも唾を呑む音を隠しきれなかったが、幸い兄には気づかれずにすんだようだ。 兄はコソコソと前屈みになりこちら側にはその桃尻だけ晒して済ませているつもりらしいが、ここは試着室内であり、大抵の試着室というのは壁面が鏡張りになっているもので、関索の視線はさっきから鏡に釘付けである。 …あー眼福〜。 心中は合掌だ。 「あの、索…」 「すごいよ、兄上!最高に似合ってる!!この水着は兄上に着られるためにあったんだよ」 「そんな大袈裟な…」 「でもホントに、ホントに似合ってるよ。買おう!買うしかない!!」 「コレをか?!」 ここでもう一押しするしかない。兄にとっての最強のジョーカーは、そう、父だ。 「…兄上。超男らしくて、まるで父上みたいですよ」 「そ、そうか…な」 キマッタ…。 しかし悲しいかな、翌日からバイトが連勤で兄と海に行く約束がなかなか果たせなかった関索が長時間勤務にへとへとで帰宅すると、日焼けした長兄がいつの間にか帰省していたらしい次兄と二人して潮の香りを漂わせて出迎えた。 「え…兄上、もしかしてアニキと海行っちゃったの?!私と二人で行くって約束してたのにぃ〜」 「ご、ごめん…」 しかし約束を破られてしまったガッカリ感など一瞬で吹き飛ばしてくれたのは次兄の一言だ。すれ違い様にニヤニヤと「ブーメランパンツグッジョブ☆」と肩を叩いてきて、正直心底ムカついたのだった。 |