学園パロ シャンプーの彼。 |
えにしだ |
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やってしまった…。 その時純粋に思い浮かんだのは、痛みとか怒りよりもただそんな言葉だった。 端的に言うと、車に轢かれた。 風が強い日に、見知らぬおばあさんの荷物を持ってあげて、横断歩道でたまたまこれまた見知らぬ子供の帽子が飛ばされたのを拾おうとしたら、結果、そうなった。 大きな荷物を抱えていなければ車が見えただろうし、帽子だって咄嗟に屈まずにもうちょっと周りを見て安全を確認してから拾えば良かったわけだから、自分のせいでもあると恨みも悔いもない。 診断は左手首に近い部分の尺骨骨折。3週間でギプスは取れるというが、まあ不便は不便だ。 何より困るのは「不便でしょう、兄上」と関索がやたら世話を焼いてくることだ。 左手だから大丈夫だというのに、食事中も箸を取り上げられ「あーん」とか言っちゃって口元まで食べ物を近づけてくるし、靴下を脱ぐとかいうちょっとした着替えにもいちいち手を出す。挙げ句にトイレまでついて来ようとする始末で、さすがにそれは断固拒否した。 「じゃあ兄上、次は髪洗ってあげます!」 さっさとTシャツ短パンになり、にこやかにそう言う索の笑顔の輝きが眩しすぎて、関平はもはや抗う気力が消滅寸前だ。 …頭だって多分時間はかかっても片手で洗えると思うんだけど…。 しかし関平の心の中では、『風呂→真っ裸→いくら弟でも恥ずかしい』説を唱える天使が、『洗ってもらえるんならそりゃ楽だし』『せっかくあんなにやる気の索をがっかりさせてはかわいそう』『索はこの間“将来は美容師になろうかな”とか言ってたんだからこれは練習台みたいなもんだ』と囁く悪魔に敗戦濃厚といった状況だ。ちなみに、わざわざ追記する必要があるか不明だが、見るも無惨な圧倒的敗北である。 「…じゃあ…頼む」 心なしか暗い声で言う関平なのだった。 「兄上、かゆいところはないですか?」 「んー…」 弟の強烈な押しに負けて結局身体まで洗われた関平は(股間だけはなんとか死守した)、抵抗することに疲れ果て、無気力に返事した。 実際、索愛用シャンプーのやたらイイ匂いに包まれ、またなんとも丁寧に時間をかけて頭皮の隅々までマッサージしてもらうとなんだかフワフワ夢心地になり、そりゃ返事も虚ろになるというものだ。 「ね、兄上」 「ん〜?」 「これって何か、恋人同士みたいだよね!」 「えー?そうかぁ?」 ただのシャンプーの、どこが?と、お約束で期待をぶち壊してくれる兄に、しかし索はすぐに気を取り直すと二つ目の策を打つ。 「ね、兄上。気持ちいい?」 「うん」 心底気持ち良さそうにうっとりと目を閉じたまま応じた兄に、索はぐぐっと自分の血圧が上がるのを感じた。 そして一か八かの博奕に出る。 「…シャンプーして気持ちイイ感じって、エッチして気持ちイイ感じと一緒なんだって」 突然、されるがままだった兄が慌てふためきギョッとした顔で振り向いた。 「私たち、カラダの相性いいってことですよね」 「なっ、何言って…!」 「ふふっ、二人で気持ちイイことしちゃった」 真っ赤になった兄が無事な方の手で口を塞ごうとしてきたが、難なくその手首を捕らえ、喋り続けた。 「もう一つ、イイことしましょうよ」 関索が顔を近づけると関平は反射的に仰け反って逃げようとしたが、片手は石膏漬けで使えず、もう片手は弟にしっかり拘束されている。 観念したのかぎゅっと目を閉じた兄の唇に、関索は自分のそれを重ねた。(重ねついでに唇を優しくはむはむと噛んでおいた。) …涙目の兄上、カワイイ〜。 「…気持ち良かった?」 「…」 「このシャンプーの匂いがする度に思い出しそう」 俯いていた兄がボソボソ聞こえないくらいの小さな声で答えた。 「だ、だって、お前、いっつもこの匂い…」 「え?」 「お前いつもこの匂いしてるから…!」 「…しょっちゅう思い出しちゃう、ってこと?」 恥ずかしそうにこくんと頷いた兄に、またテンションが上がるが。 …イヤイヤ、だめだ。今日はここまで。 欲求を押し留め、シャンプーの続きを再開する。 花と果実の香りが溢れる浴室内に秘密を隠して。 |