関平の恋愛教習所シリーズ What's LOVE? |
あき様 ご投稿作品 |
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ここは、蜀軍を代表する猛将の一人・張飛将軍のお宅です。 「三人揃えば宴会の始まり」と表現したのは、かの諸葛孔明殿ですが、今夜は張飛将軍とその愛娘・星彩の発案により張飛将軍宅で飲み会を開くこととなりました。 参加メンバーは、張飛親子に趙雲・馬超、関平です。 「おう、よく来たな。まぁ、上がれや。準備はできてるからよ」 張飛はいつもと変わらない豪快な笑顔で出迎えてくれました。 趙雲と関平はそれぞれ手土産を持参してきたようです。馬超は手ぶらですが、本人は全く気にしていない様子です。 「趙雲殿に関平。おいしそうなおかずをありがとう。あら、馬超殿もいたのですか?」 「ははは、相変わらず星彩は手厳しいな。でも、全くだよ。仮にも先輩宅に招かれたというのに手ぶらで平気で上がりこめる根性が、羨ましいというか」 「せめて、故郷の酒でも持ってくればまだ常識があると思えるのだけど」 「あ、あの、趙雲殿も星彩もその辺りに・・・」 いきなり馬超に集中砲火ですが、今日の集まりの目的は何も常識が欠けている馬超をいじめて楽しむことではありません。 手土産の品も並べ、宴会の始まりです。・・・とは言っても、最初はやはりがっつり食べて、がっつり飲むことしかありません。 胃袋がそれなりに満たされ、酒もほどよく回ったところで、今夜の本題が始まります。 「それでは、だな」 手にしていた杯をグイと飲み干し、卓の上に置くなり張飛が切り出します。 「腹も膨れたことだし、本題に入るぞ。関平、お前、兄者と付き合ってんだろ?」 「ぶはっ」 あんまりにも直球な言いように、当の関平は口に含んでいた酒を噴いてしまいました。 「あ、あの、叔父上っ?一体、なんの・・・」 「驚くことはないわ、関平。あなたが関羽様とお付き合いしていることは、ここにいる皆が分かっていることだもの。第一、今夜の目的はそのことをあなたから直接聞きたくて、私と父上が企画したことだし」 「ええ?『皆で自慢の一品を持ち寄って一杯やりましょう会』じゃなかったの?」 「何よ、その会の名称は。って言うか、それくらい察しなさいよ、鈍いわね」 「私も気になっていたから参加させてもらったんだ。コレは予定外だけどね」 「悪ィ。関平をうちに連れてくる口実として、俺が即興で考えたんだわ、それ」 「趙雲宅に行く予定だったからなりゆきで付いてきただけだ、何が悪い」 皆それぞれに主張を繰り広げた結果、何がなんだかかえって分かりづらくなってしまいましたが、要は最近の関平の様子がおかしいと思っていた趙雲と張飛・星彩が今夜の宴会を企画したのが真相のようです。 「そんなことはどうでもいいや。関平、どうやって兄者と付き合うようになったんだ?」 「あなたのことだから自分から告白はできないわよね。関羽殿から言われたのね?」 見た目は他人のようですが、他人の事情を全く省みないあたりはさすがに親子と言わざるを得ない張父娘の、取調べのような尋問が続きます。 「あなたが関羽様のことを尋常じゃないほどお慕いしていることくらい、傍から見ていて丸分かりなのよ。告白されたんでしょ?」 この場の状況では、質問に答えない限り帰宅はおろか、眠ることすら許してもらえない雰囲気すら漂い始めたのを感じた関平は、心の底に納得がいかない気持ちを持ちつつ尋問に答える覚悟を決めました。五虎将軍のうち三人も相手にすることは関平には到底できませんから。それに、残った星彩も関平にとって恐ろしい人のうちの一人です。 「あの、先日の夜、父上の寝室に挨拶に上がった際に・・・父上から・・・『好いておるだろう?』とお尋ねになられましたので、その、『好いております』と、お答えしました」 関平はその状況を思い出しながら、訥々と語り始めました。 言っているだけで恥ずかしくて、皆の顔を見ながらなんてことは到底できません。顔を真っ赤にして、俯いてしまいました。 「兄者もうまいことやったなー」 「そうですね。それにしても、寝室に呼び寄せるとはさすが関羽殿、大胆ですね」 「当然、そのあとはなだれ込んだだろう?」 「当たり前じゃないの、馬。さ、関平。その辺りのことも詳しく教えなさい」 顔の火照りを冷ますため、右手で仰ぎながらようやく皆の顔を見ることができる余裕ができた関平に対し、周囲はこの反応です。まるで女の子の恋愛談義のようです。 「なだれ込む、とは?」 馬超の質問の意味が理解できない関平は、真顔で聞き返しました。 「何を白々しい。寝室で告白したんなら、あとはやること一つしかないでしょう」 星彩は一応年頃で嫁入り前の乙女ですが、こんな性格なので蜀軍ではあまり「女性」という囲みで見られていないようです。 彼女の言葉に思い当たることがあったのか、関平は「あ」と声を発するとまた顔を真っ赤にしてしまいます。 関平のその様子に、一同は期待して関平の次の言葉を待ちます。 「その、父上に・・・接吻、していただきました・・・」 「接吻!!それだけ?」(×4人分) 見事なタイミングです。ピタリと揃いました。 「それだけです・・・。父上の接吻はとても気持ちよくて、あの、途中で拙者が・・・」 「兄者もお気の毒になぁ」 「関平は本当に純情だから・・・」 「チッ、本当につまらないわ・・・」 関平の話を最後まで聞かなくてもだいたいの内容はつかめた様子の4人は、深いため息をつきます。 その様子を見て、関平は少し不安になりました。 「あの、拙者はどこかまちがっておりましたか?」 関平は関羽が初めての恋の相手でしたし、そもそも「お付き合いする」という状況があんまり理解できていません。彼の真面目で勤勉な性格もあり、ここは正直に聞いてみようという気持ちになったのでした。 「間違いだらけよ!」 いきなり断言したのは星彩です。 「ま、終わってしまったことを責めても仕方のないことだし。それよりも、まさかその夜以来、関羽様と何もしていない、なんてことはないわよね?」 星彩はどうしてこんなに人を追い詰めるような話し方をするんだろう、と関平はぼんやり思ったりしましたが、それをうっかり本人に告げたところで、間髪いれずに鉄拳制裁を加えられるに決まっているし、周囲の大先輩たちも助けてくれないと思うので素直に彼女の質問に答えることにします。 「何も、って何も?あ。以前よりも父上が二人きりの時間を作ってくださるようになったかな。お忙しいのに、なんだか申し訳ない気持ちもするんだ」 本当に幸せそうな笑顔で語る関平ですが、聞いている星彩本人は眉間に皺を寄せていて、なんだかイライラしているようです。 「私はあなたの小さなノロケ話の発表会は要求していないのよ、関平。あれからヤッたのかヤッてないかだけ素直に答えてくれればいいの」 「なんで、怒るの?星彩」 当の関平は彼女の怒りの原因が全く分かっていないようです。しかも、今の質問の意味すら分かっていない表情です。 「まぁまぁ、星彩。相手は関平だ。いきなり多くを望むのは早いってもんだ。なぁ、関平。この際だから聞いちまうが、お前は兄者と肉体関係を持ったのか」 張飛のこの質問には、さすがに関平も驚いた様子を見せました。質問の内容は理解できているようですが、どう答えるべきか悩んでいるようにも見えます。 「あるかないかで言えば、ありません・・・。しかし、叔父上。拙者と父上が肉体関係?あり得ません」 「はぁ?!」(×4人分) 前回よりも、声が大きくなりました。それも無理はありません。 ただ、この大声に張飛宅の家人が驚いて駆けつけて来ようかと思われるくらいでしたが、このくらいの大騒ぎはさほど珍しくないようで、誰も様子を伺いには来ませんでした。 「まさかの、関平S疑惑?嘘でしょう?出会ってから今の今までずっとMだと信じて疑わなかった私はどうなるの!」 「いやいや、星彩。落ち着こうぜ。何もこの先全くヤらないというわけでもないだろう。な、関平。今は付き合いたてだから考えられないだけだろう?」 「あり得ない、あり得ないってどういうことだ?逆ならまだしも、自然だろう?」 「まぁまぁ。先ほど張飛殿も言っておられましたが、関平の気持ちもあるでしょう」 四者四様の対応です。 自分の恋愛に対する考え方が常人よりも少々違うかもしれない、とは薄々感じていた関平でしたが、この反応を間近で見てしまった以上は「少々違う」というよりは「かなり違う」と言わざるを得ないと思い始めていました。 「あ、あの・・・」 しかも、自分を置いて勝手に議論は熱くなっています。 「ちょっと関平!どういうこと!私達相手だから遠慮しているとでも言うの?まさか、『見つめてるだけでも幸せです』とか言わないよね?その顔で」 「ああ、関平ならありそうだ。どうなんだい、関平?」 ようやく自分の話を聞こうかという姿勢になってくれたのはいいとして、関平不利な状況は依然として継続中です。 「あの・・・。そもそも拙者は父上に憧れておりましたし、その父上にお仕えできるだけでも嬉しいことでしたし、その上劉備様のお心遣いでこうして息子と名乗ることも許されているのです・・・。さらに、父上とも心が通って・・・」 ゴツッ。 見ているだけだと、恋に恥らう乙女のような風情の関平でしたが、そのちんたらした話し方にイライラした星彩が我慢できず、関平の頭に鉄拳制裁です。 「だから!何回言えば分かるの?小さなノロケ話の発表会はこれっっぽっちも要求していないのよ。しかも、何?!今の言い方だと、『見ているだけで本当に幸せ』とでも?」 「まぁ、関平の場合は状況が状況だしな。でもよぉ、関平。お前も男だったらよぉ、あるだろうが。なんつーの?『触りてぇ』みたいな感じが」 「告白前なら『見てるだけでも』って気持ちは分かるけどね」 「心が通じ合ったなら、次は体も通じ合いたいというのが正義だろう。体の調子でも悪いのか?」 「普通だったら男女を問わずにあるものよ」 関平本人が反論できないのをいいことに、随分な主張です。関平も底なしの知能なしではありませんので、今までの流れで自分にとって何が不足しているかがだいたい分かってきました。 「えーと、つまり、拙者の父上に対する気持ちは普通と違ってる?」 「欲がなさすぎる、という点でね。相手が関羽殿というところと君たちの馴れ初めを考慮すると、関平が関羽殿に遠慮してしまうのも仕方ないと思うけれど、君の年代だったらもうちょっと自分の気持ちに素直になっていてもいいと思う」 趙雲が分かりやすく、関平の言葉の後を引き取ってくれました。皆もウンウンと頷いています。 「お前はよぉ、とにかく兄者に対して遠慮しすぎなんだよ、関平。ここだけの話で言ってみ?本当は兄者に言えないけど言いたい気持ちってのがあんだろう?」 手酌で酒を飲みつつ張飛が尋ねてきました。関平は少し考えた後、 「そうですね・・・。でもやっぱり拙者は父上のお側にいられるだけで幸せなんです。その・・・接吻とか、それ以上のことは・・・今はちょっと・・・」 そう言いながら恥ずかしくなってきたのか、顔を真っ赤にしてしまいました。 「本人がそう言うなら仕方ないが・・・」 「オレは男として関羽殿に心から同情するな」 「お子様は結構手ごわいぜぇ、兄者ぁ」 「女だったらこんな恋人は速攻お断りだわ。でも」 周りの4人はそれぞれにため息をつきながら、 「こういうのに限って、深みにハマるとコロッと変わるし(特に寝所で)」 と感じていました。 その後、広げられた食べものと酒がすっかりなくなるまで食べつくし、飲み尽くしたら今日は解散です。 いつの間にか外は肌寒くなっていました。関平が門を抜けるとそこには・・・。 「あ、父上!」 なんと関羽が赤兎馬を従えて待っていました。 「今、お仕事の帰りなのですか?」 「ああ。確か、関平たちが翼徳の家で宴会をしていると城で聞いてな。ちょうど良かった」 一緒に帰ることができるとあって、関平は本当に嬉しそうです。そんな嬉しそうな顔を少し離れたところで見ていた趙雲と馬超も悪い気はしません。だって、関平の全身から関羽が大好きだという気配が見えるくらいですから。 「オレ達にもあったかもしれないな、あんな時期が」 「心が通じただけで嬉しくなる気持ちが、な」 いつの間にかそんな当たり前のことを忘れてしまっていたけれど。でも、そのうちに関平にも分かるだろう、自分の心も体も満たされる時が。 「できれば、それまで関羽殿の理性が保ちますように・・・」 自分たちへの挨拶も忘れて家路を急ぐ関羽と関平の後姿を見つめながらそんなことを趙雲は願っていました。 お わ り |