お子ちゃま平たんシリーズ
        こどものキス、オトナのキス
           あき様 ご投稿作品
 
 

 先日の戦で諸葛亮と司馬イの必殺技をまともにくらってしまい、幼児に戻ってしまった関平は、その後も特効薬が見つからず、幼児のままなのでした。
 そして、今関平が彼の大好きな父・関羽に連れられているのは五虎将軍の一人・趙雲の邸宅です。
「軍師殿から話には聞いておりましたが、関平が・・・。ですが、こう言うと怒ると思うのですが、面影が残っていて可愛いですねぇ」
 関羽ほどではありませんが趙雲も立派な武将ですから、子供である関平との背の差はかなりありました。
 関平は見上げるようにして、優しい笑顔を浮かべる趙雲の顔を見ていました。
 趙雲は自他共に認める子供好きです。
 主君の子を懐に守ったまま単騎で戦場を駆け抜けた姿を見た曹操が、ぜひベビーシッターとして来ないかと引き抜きを考えたとかいないとか。
「本当に可愛いですねぇ〜。このプッニプニのほっぺた!本当に預からせていただいても良いのですか?」
「そなたにしか頼めぬ。無理を言ってすまないな」
「良いのですよ。こんな機会でもなければ子供の面倒なんて見られませんし、何と言ってもあの関平なのですからね」
 関平のほっぺたをプニプニ伸ばしながら本当に嬉しそうに趙雲は言います。
「私は留守番役なのですから、どうぞご遠慮なく」
 関羽が戦に出ることになったのですが、関羽にはちゃんと夫人がいらっしゃるので何もわざわざ趙雲宅に関平を預ける必要もないのですが、そこにはちょっとした関家の事情がございました。
 関平の弟にあたる関興は、兄である関平のことが好きすぎて、父の留守を幸いにちっちゃな関平に何かしでかしそうなのは、偉大なる軍神様にはお見通しでした。
 先手を打って、簡単に関興が出入りできない相手で関平もよく知った相手で幼児が大好きな・・・と言えば、関羽には趙雲しかいなかったのです。
 幸い、関平自身も趙雲のことは元々尊敬していましたので、すんなりと話は進みました。
 関興は、と言えばせっかくの良い機会を父につぶされたのをかなり不服に思っているらしく、父の出陣に見送りもしない有様なのでした。
 息子のそんなささやかな反抗などどこ吹く風のご様子の関羽は、独断でとっとと計画を決めて趙雲に許可を取り付け、今日に至ります。
 関羽は趙雲によろしく頼むと伝えると戦場へと出かけました。
「さて、関平。お父上が帰られるまでよろしくな」
「はい、ちょーうんどの」
 大好きな父上と離れ離れは寂しいようで、関平は必死に寂しさをこらえて趙雲宅にお泊りすることになりました。
 子煩悩ながらも蜀では五虎大将の一人である趙雲は、自らの鍛錬を行いながらも小さい関平が退屈しないよう、遊びながら鍛錬できる方法を考案してくれました。
 幼いながらもさすがはあの関羽殿に見出されただけの素質はあったのだな、と趙雲は思っていました。
 趙雲が自ら作ってくれた子供用の木刀を持って素振りをするその真剣な横顔は、趙雲が知る青年・関平の姿を彷彿させました。
 眠るときはさすがに一人では可哀想に思った趙雲は、関平と同じ寝台で休むことに決めました。幸い、関平もその提案に大層よろこんでくれたのも趙雲を安心させました。
 ちっちゃな関平は一足先に寝台に入り、すやすやと眠っていたのですが、何かの物音に気づきそぅっと目を開けてみました。
「ちょーうんどの?」
「あ、目が覚めたのか?・・・ヤバイな、こんな時に・・・。こら、孟起っ」
 薄暗かったのですぐには分かりませんでしたが、趙雲は寝台に腰掛けて誰かとお話しているようでした。
「だぁれ?」
 眠る前には趙雲しか邸宅内にはいなかったはずなのに、このもう一人の人は誰だろうと思うと目が覚めてしまいました。
 そして、趙雲が「もうき」と呼ぶ人が誰なのかを確認するため、関平は布団をはねのけて趙雲の隣に移動しました。
「だれ?」
関平は目の前の人に向かって、もう一度尋ねました。
「俺は、馬孟起だ」
「どんなひと?」
 小さな子供相手に本気で答える馬超と、そんな馬超に興味津々な関平の間にはさまれた趙雲は、意味不明な頭痛を抱えながらも、やっぱり私が軌道修正するべきかな・・・なんて考えておりました。
「俺か?俺は子龍のこいび・・・何をする!」
「状況をよく考えてくださいよ!この子は小さくても関平なんですよ!もう少しうまく取り繕えないのですか、あなたは!」
 趙雲はあまりのオープンな発言をかました恋人・馬超に鉄拳制裁を行い、関平に修正した事実を教えなおすことにしました。
「関平、この人は私の友人の馬孟起どのだ。私を訪ねていらしたのだよ。眠っていたところを起こしてしまってすまないな。さ、もう横になりなさい」
 さすがは蜀軍きってのベビーシッター(違います)。小さな関平でなくても、皆が知っているいつもの関平でもコロッとだまされそうなナイスコメントです。
 実は関平はまだ眠くはなかったのですが、もう一人の人の謎が解けてしまったので、とりあえずは横になってみました。
 まぶたを閉じてじっとしていると、眠ったと思ったらしい趙雲と「もうき」と言われた男の人のヒソヒソ声が聞こえた気がして、関平は気づかれないようにそうっと目をあけてみました。
 すると、趙雲と馬超が薄暗がりで抱きしめあって「何か」をしているのが何とか見えました。
 なんだか二人ともとっても幸せそうで、関平はもう少し詳しく見たくなりました。
 どうやら二人は口と口を重ねあっているように見えます。
 関平にはその行為がどういうことなのか分かりませんでしたが、どうしてだかうらやましくなりました。
 いつの間にか、関平は眠りについてしまい、朝起きたときには趙雲は隣にいませんでした。(関平が不思議な気持ちでいると、慌てた様子で趙雲が部屋に入ってきたのでした。)
 朝食を終えたあと、趙雲は仕事のために家を離れましたので関平は趙雲宅の家人に見守られてのお留守番です。
 趙雲には邸宅の敷地より外に出なければ自由に歩き回ってよいと言われていましたので、探検することにしました。
 お仕事をしている人たちの邪魔にならないように気をつけながら、まずは家の中を歩きました。
 しかし、独身の趙雲宅は関平や関羽が住んでいる家とは大きさが格段に違っていましたので、すぐに探検が終わってしまいました。
 それでも子供の足ですので、家人に話を聞きながら探検するだけでも半日を費やしました。
 お昼ごはんの時間になっても趙雲は戻って来れないようなので、関平は家人と一緒にごはんをおいしく食べ、昼からは庭を探検しようと思っていました。
 趙雲からは庭に出てもよいと言われていますが、庭に出るときには必ず誰かに行き先を告げてから出るようにと何度も言われていました。
「あのね、これからおにわにいくの」
 関平は趙雲から言われた通りにお昼を一緒に食べた人たちにそう告げました。
「お庭に行くのね。分かりました。もし、趙雲様が早く戻られたらそのように伝えておくわね。お庭で会った人たちにもちゃんとご挨拶しておいてね。みんなあなたのことを見守っていますからね」
 まるでお母さんにように優しく答えてもらったので、関平はすっかり嬉しくなって、ますます庭での探検が楽しくなりました。
 クソ暑い真昼間に庭に出ている人はあまりいませんでした。
 小さな関平は知る由もなかったのですが、家人たち(特に外の仕事をしている人たち)は、皆昼休みにはいっていたためいつも関平が見ていた人数よりも大幅に少なかったのでした。
 それでもあまり気にすることなく、出会ったひとには挨拶を欠かさずに関平は庭をどんどん進んでいきました。
 やっぱり庭は家の中よりも探検のしがいがあります。
 武人の邸宅らしく、庭は広く取られており趙雲が日頃の鍛錬をしているのが伺えます。
 色々な木々や植物、それらに集まってくる鳥や虫たちを見たり、池の中の様子を見ているだけでも関平には心がウキウキしてくるのでした。
 場所を移しながらとことこ歩いていくと、人の声が聞こえてきました。
 小さな関平からは姿が見えませんでしたので、見えるところまで近づくと、そこには男の人と女の人が二人、立っていました。
 楽しそうに話をしているように見えたので、挨拶をしようと思ったその時、男の人が女の人を抱きしめました。
 なぜだか声を掛けてはいけないと関平は思ってしまいましたので、そのまま隠れるようにその様子を見ていました。
 そのうちに男の人が女の人に顔を近づけて、口を合わせています、関平はこんな光景をどこかで見たことがあると思っていました。
 考えている関平の後ろからスッと手が伸びたと思えば、関平の小さな体は誰かにさらわれていました。
「ダメだよ、関平。今の関平にはまだ早すぎるよ」
 耳に飛び込んでくる優しい声。
「ちょーうんどの!」
「ただいま、関平。一人で寂しくなかったかい?家を探検していたんだって?戻るのが遅くなってすまなかったな」
「ううん、さみしくなかったよ。それより、さっきのはなに?なぜくちをつけるの?」
 趙雲は内心、やはりそうきたか・・・と思っていましたが、今の関平には謎が解決するまで忘れろと言いつけても無理に決まっています。
「・・・あれはね、お互いがお互いを好きだと思っている相手とすることなんだ。今の関平には分からないことかもしれないけれど、ああすることで、もっとお互いのことが大好きになれるんだ」
「ちょうーうんどのともうきみたいに?」
「うん、そうだよ・・・って、何を言うんだ関平?!」
「だって、ちょうーうんどのもきのうしてたでしょ、おなじこと」
 趙雲にすればまさか昨日の夜のキスは関平に見られていないと思っていたので、正直、心臓がどうにかなってしまいそうなくらい驚いているのですが、そこは五虎将軍の一人です。冷静さを総動員させてクールを装います。
「見ていたんだね・・・。早く眠りなさいと言ったはずなのに・・・まぁ、いい。私と孟起のことは二人だけの内緒だよ、関平。まぁ、とにかくそういうことさ」
 説明になっていないあたりは、冷静さが保てていない証拠かもしれませんが、当の関平は分からないなりになんとなく納得がいった様子でした。
「だいすきなひとにはくちとくちをあわせるんだね!」
 その幼い瞳は何かを思いついたらしく、キラキラしていたのを趙雲は気づけませんでした。
 その夜も趙雲宅に泊まり、次の日に関平は自宅に帰ることになっていました。
 関羽がこちらに戻り次第、趙雲宅まで関平を迎えに来ることになっており、関羽と一緒に自宅に戻ることになっていたのでした。
 夕食は馬超も招待され、賑やかなものとなりました。
 関平はごちそうを口いっぱいに詰め込みながらも、なんとなく趙雲と馬超の二人が醸し出す雰囲気をうらやましく思い始め、関羽が早く迎えに来てくれないかと思っていました。
「そうだ、関平。さきほど殿から伝言をいただいたんだ。関羽殿が・・・お父上が明日の早朝にもこちらに到着されるそうだぞ。良かったな」
「そうちょう?いつ?あさ?」
「明日の朝の早くさ。お前、起きられるか?いつもより早い時間だぞ」
 いよいよ関羽が迎えに来てくれることが現実のこととなった関平には、嬉しくてなりまん。早朝という言葉の意味も分かっていない様子の関平に、つい苦笑しながら馬超はその言葉の意味を教えてあげることにしました。
(俺が知っている関平とは、こういう部分は全く変わりがないな。父上が大好き、ってあたりが、な)
 そう思って関平を見ていると、不思議と可愛く思えてならないのでした。
 朝早くに到着するという関羽をどうしても出迎えるつもりの関平のために、趙雲はいつもよりも早めに眠らせました。
 本当は、恋人とゆっくり過ごしたかったのですが、朝早く起きるという関平を一人にはさせておけませんし、第一、その父である関羽将軍自らがこの家まで出向くというのに寝過ごしてはいけません。
 その辺りは馬超をよく分かっておりますので、今夜は食事を一緒にしただけで馬超は自宅へと戻りました。
 そして関平が待ち続けたその日がやってきました。
「・・・い、関平。起きられるか?関羽殿がそろそろ到着されるそうだぞ。お出迎えするんだろう?」
 優しい声に、関平はまだ眠っていたい気持ちになりましたが、今日ばかりはそうはいきません。
 なぜって、今日は関平が大好きな父上がやっと帰ってくる日なのです。寝ているなんてもったいないことはできないのです。
 眠たい頭を頑張って起こして着替えをすませ、趙雲や家人達と関羽の到着を待ちます。
 早朝と聞いていましたが、趙雲が連絡を受け取った際に「関平が関羽殿を出迎えたいようだ」と伝えていてくれたのでゆっくりめに到着するように調整してくれたようでした。
 色ははきりと見えませんがひときわ立派な馬とそれに騎乗している人物の姿がやがて見えてきました。
 関平には教えてもらわずともそれが父上と父上の愛馬・赤兎馬ということがちゃんと分かっています。
 いよいよ父上にお会いできると思い、その小さな胸が今にも破裂しそうになるくらいドキドキしています。
「ちちうえ、ちちうえ!」
 関羽の立派な姿が誰の目にも映る頃、待ちきれなくなって関平は関羽を呼びました。
 呼んだだけでは我慢できなくなって、気が付けば関羽の元に駆け出していました。
 実は関平は、関羽が戻ってきたら関羽にぜひしたいと思っていることがあるのです。絶対やってみたいという気持ちが今の関平を動かしています。
「趙雲、すまなかった。関平を迎えに来た。朝早く、迷惑をかけてしまうが」
 赤兎から降りた関羽が趙雲に挨拶をします。趙雲は「当然のことですが、ご無事で何よりでした」と労をねぎらう間も、関平は関羽の側にぴったりくっついて離れようとしません。
 だって、やっとやっと会えた父上なのですから。
 その必死な様子を見て、思わず趙雲はクスリと笑ってしまいました。
「やっぱり、大好きな存在には負けてしまいますね」
 とても良い子にしていましたよ、と穏やかな笑顔で言う趙雲に今一度礼を言うと、関羽は関平と自分の邸宅へと連れて帰りました。
 その道中、関平は関羽の膝の上にちょん、と座っていました。
 これでは関平がしたいと思っていることができません。思い切って関羽に伝えてみることにしました。
「あの、ちちうえ!」
 関平の必死な様子に何かあったのかと気になり、関羽は馬を止め、関平の表情を伺うために関平を覗き込みました。
「どうしたのだ、気分でも悪いのか・・・」
 次の瞬間、関羽の唇は関平の小さな口でふさがれていました。
 とは言っても、口付けのことは何も知らない関平が見よう見真似でするものですから、本当に唇が触れ合うだけの幼いものでした。
 どのくらい口を付けるのかが分からないので、関平がそっと顔を離すと同時に関羽も姿勢を正し、また馬を進めました。
 それから家に帰るまでの間、関羽は一言も関平に話しかけてくれませんでした。
 その沈黙で関平は思っていました。父上は自分のことを嫌っている、と。
 そう思えば思うほど悲しくなって、関平はなんだか涙が出そうになってしまうのでした。
「殿、ご無事のお帰り何よりでございます。まずは休まれますか?」
 家に到着すると家族が出迎えてくれていました。夫人は関羽にねぎらいの言葉をかけると同時に、その腕の中の関平がしょんぼりしていることにすぐ気が付きました。
「あら、平はどうしたのですか?」
「いや、儂を出迎えようと早起きをして待っていたようだ。兄者に使いを出してくれ。このまま関平と共に休む」
 今にも涙がこぼれそうな関平を抱きかかえたまま、関羽は自分の寝室へと向かっていきました。
 その途中も関平の頭は関羽に怒られるという恐怖でいっぱいでした。
 黙ってあんなことをしてしまったから、大好きな人とやるものなのに嫌いな自分とやってしまったから、などと思いつくのは子供なりに悪いことばかりです。
 寝室に入ると関平を寝台の上にそっと乗せ、関羽は着替えを始めました。
その姿を見ながら、関平は自然に言葉が出ていました。
「ちちうえ、ごめんなさい・・・」
「・・・」
「あんなことして、ごめんなさい。せっしゃ、ちちうえがだいすきだから、どうしてもちちうえにしたかったの。・・・っく、ちちうえだけにしたかったの・・・っ。ちちうえがだいすきだけど、もうしないから、せっしゃをきらいにならないで・・・」
 精一杯の気持ちを関羽に伝えようとしていると、知らずに今まで我慢していた涙がこぼれていました。関羽から「男は泣くものじゃない」と言われているので、関平は関羽に怒られないように袖で涙を拭います。
 涙を我慢しようとすると今度は声が出てしまいます。必死にそれも我慢しようとしている関平を、関羽はそっと抱きしめてくれました。
「お前を嫌ってなど、いない」
「ちちうえ」
「どうしたら良いか、考えていたから何も話さなかったのだ。お前を嫌いになるはずがない」
 耳元で聞こえる関羽の温かい声に安心しましたが、関羽の話の内容はあんまり分かっていませんでした。ただ、関羽が自分を嫌いじゃないという重要な部分は理解できていました。
 嬉しくなって、顔を上げると思いがけず関羽の顔が間近にあってビックリしました。
「ちちう・・・んっ」
 関羽の大きな手のひらが関平のぷにぷにほっぺたに添えられたと思えば、関羽がグッと顔を近づけてきて、気が付けば関羽が関平に優しく口付けていました。
 唇の先を触れ合わせるだけだった関平の口付けとは違い、関羽のそれは唇と唇がしっかり重なり合っています。優しく吸われ、関平はなんだか気持ちよくなってきました。
「ちちうえ・・・」
 唇が離れると、関平はすぐそこにある顔をぽうっとした表情で見つめました。
 関羽はいつになく優しい顔で、関平の涙をぬぐってやりながらこう言いました。
「平、これは父と二人だけの秘密だぞ。誰ともこんなことはしてはならぬ」
「はい、ちちうえ。せっしゃはちちうえとしかしません」
「ならば、もう一度平が儂にしてみろ」
 そう言われて、関平は関羽に近づいてそっと唇を合わせました。
 すぐに関羽からも唇を重ねてくれました。
 そのまま何度も口付けを重ねるうち、いつしか関平は気持ちよさと眠気が重なってしまい、関羽の腕の中で眠りについていたのでした。