ドMなペットを飼いませんか?
       番外編 きょうのわんこ
           えにしだふう様 ご投稿作品
 
 
 ケーキを買ったのは、ただ単に気まぐれだった。
 しかし平が真っ赤なイチゴを頬張って喜ぶ姿を見てみたいと思ったのも真実だ。

「ちちうえ、おかえいなさい!」
「うむ、ただいま」
 飛びついてくる平を今日だけはそっと押し止める。
「平、ケーキが潰れるからダメだ」
「…けき?」
 平はきょとんと小首を傾げた。
 ほら、と白い箱を掲げて見せてやる。平はクンクンと匂いを嗅ぎ回った。
「ちちうえ、いいにおいする!」
 目を輝かして見上げる平の嬉しそうな顔だけでもこれを買った甲斐があったというものだ。

 平にはオレンジジュース。それから、今日だけはインスタントでなくドリップコーヒー。香ばしいかおりが部屋中に広がった。
「平、おいで」
 せっかく、『食事はきちんと食卓で』のしつけが身についたばかりの平にイレギュラーな状況を見せるのはかわいそうかとも思ったが、ソファに腰掛け手招きすると平はしっぽをパタパタ振りながら関羽の膝に上った。
「…いいか?今日だけは特別だからな?」
 何がどう特別なのかわかってもいないだろうに、平はしっぽをパタパタしながらこくこく頷いた。
 平を膝に乗せたまま、ケーキを一口分フォークにとって口運んでやる。
「…ほら、アーンしろ」
「あーん」
 ご丁寧に声まで出して口を開けた平の舌の上に、ふんわり真っ白なクリームを纏ったスポンジをのせてやった。
 もぐもぐするその幸せそうな顔が、なにより彼の気持ちを代弁している。ばら色の頬っぺたを突いてやった。
「…うまいか」
 平は何度も頷いた。

「ちちうえ、ありがとございます」
 真っ赤なイチゴを食べ終わった平がはにかみながらそう言ってくちづけてきたその幼いキスは、やっぱり言うまでもなく甘酸っぱいイチゴのかおりだった。