援交。 アナザーストーリィ   孔明×関平★
           えにしだふう様 ご投稿作品
 
 
 昼の休憩時間に校内放送で呼び出された関平は指導室の前でノックをためらっていた。
 入学以来校内ではなるべく地味に目立たないように無難に過ごしてきたはずなのに、どうして自分が呼び出されたのかわからない。
…後期分の授業料だってなんとかぎりぎり間に合ったはずだし…。
 私立高校の授業料は不況の平手打ちを喰らった関家にはかなりの重荷だったが、足りない分はある方角からの援助でなんとか納期までに振込みを済ませた。
 ある方角、というのが多少後ろ暗いものではあったが。
…だ、だけど、カラダだけ買ったわけじゃなくて、か…可愛いから、面倒見るんだって言ってくれたし。
 誰に聞かれるわけでもない胸の内の独白が吃っているのは、後ろめたさがあるからだということには気付かぬ振りを続けている。
 関平は、男の言葉を思い出した途端に男の愛撫まで思い出し勝手に熱くなる自分の体に手を焼いた。
 しかしいつまでもここに突っ立っていても仕方がない。意を決し、扉を叩いたのだった。



「あの…関平です」
 中で待っていたのは担任ではなく教頭だった。諸葛教頭は暑い季節でもないのにたおやかな仕種で扇子をゆらめかし、「お入りなさい」と関平を招いた。
 大事な話なので鍵を掛けてください、と言われ、自分が入ってきた扉に鍵を掛ける。指導室とは個別面談を行うのに使われる部屋だが、応接セットが置かれ落ち着いた雰囲気である。
 立派なソファに座っても落ち着かずキョロキョロする関平に教頭は優しく話し掛けてきた。
「学校には慣れましたか」
「あ、はい」
「そうですか。高校に入学してから友人はできましたか」
「はい、あの、同じクラスの劉封と、仲良いです」
 ああ、理事長の息子さんね、と教頭はまたゆらり、扇子を振る。
…劉封って、理事長の息子だったんだ。
 前々からお金持ちのお家の子かなとは思っていたけど、と驚きの余り考えに没頭する関平に諸葛教頭が再び話し掛けてきた。
「ところで今日あなたに来てもらったのは、あなたの先週金曜の行動についてお聞きするためです」
「…?」
 ぼんやりしていて、聞き逃した。
「関平。あなたはどこで何をしていました?」
「え?いつ…いつのことですか?」
「先週金曜、いえ正確には毎週金曜の放課後です」
「…!!」
 毎週、と言い直され全身から血の気が引くような感覚を覚えた。
 毎週金曜。関平が関羽に抱かれるようになってから、毎週金曜は二人で会う日になっている。
…で、でも、なんで教頭が…?!
「どこで何をしていたのか、言えないのですか?それともどこでどんな人と会っているのかが言えないのでしょうかね」
 心臓が早鐘を打ち、冷や汗が滲む。
「あの、あの…ど、どうして」
「どうして、というのが情報源についてなら、それはあなたには教えられません。何故あなたに問い質す必要があるか、という意味なら、本校が格式と伝統を重んじる学校であるから、とお答えしておきましょうか」
 酸欠の金魚のように口をぱくぱくさせるだけで何も言えない関平を憐れむような口ぶりで、さらに教頭の話は続いた。
「確かにあなたと同じようなことをしている学生は他にもいるのでしょう。しかし残念ながら、ご両親のお立場がある学生についての情報は私のところへは届かないのですよ。もちろん不公平ではありますが、良い家柄のお子さんには無事卒業していただかなくてはならない。それが私立の哀しき定めです」
 卒業、という言葉を聞き関平は焦った。
「ぼ、僕はまさか退学ですか?!」
「そうですねぇ…。私としてはできればあなたをそんな目には遭わせたくありませんが」
「こ、困ります!ちゃんと勉強します!授業料もちゃんと払いますから退学にだけはさせないでください!!」
「関平。成績と授業料さえ、という問題ではありません。格式、と言ったでしょう」
「でも、でも僕…。教頭先生、お願いします!」
 関平は夢中で頭を下げた。必死でお願いしますを繰り返しながら、それでも「それならもうあの人とは会いません」とだけは決して言いたくなかった。

 しばらくの無言の後、やれやれといった風情でため息をつき、教頭は言った。
「…どうしても「もうやめます」と言う気はないのですね。まぁ私個人としてはあなたが体を売ろうが遊びで中年男性と付き合おうがそのことを特に喧しく言うつもりはありませんが、情報を寄せた人もいる手前、残念ながらこのまま「では、なかったことに」とはいきませんよ。関平、あなたがしていることはお世辞にも褒められたことではありませんから」
「はい…すみません」
 悲しくて関平は必死に涙を堪えた。
「もしあなたが私にこのことを黙っていて欲しいのなら…。そうですね、では私と取引をしましょうか」
しかし突拍子もない教頭の提案に唖然とする。
「取引?」
「そうです。とは言ってもあなたは授業料すら男性からの援助なしには払えない立場なのですから、対価は当然あなたに払える方法で払っていただきます」
「払える方法…?」
「ええ。なに、簡単なことですよ。あなたが年上の彼にお小遣をもらうのと同じ方法です」
まさか、まさか、と動揺しているうちに諸葛教頭は関平の目の前に立ち、関平の顎に閉じた扇子をぴたりと宛てて決断を迫った。
「…退学、します?」
 
 
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